「斜軸投象」より
目次
帰るところはない
帰れ とはなにか
おれはやっと帰ってきたのだ
朝眠る場所を出
生きるための数日前からのバイト先から
おれは今
東京へ出てきたおれの一番の目的の
法政大学へ
帰ってきたのだ
帰れとはなにか
なるほどおれがじゃまか
おれたちを追い返すためにあなたは来たという理由か
おれたちを追い返してどうするのだ
そうか また以前のように
やつらを送り返してやるのか
おれは以前にも帰れとどやされたが
桜並木の影に隠れてこっそり見ていたのだ
やつら 中核とか黒ヘルとか
ロックアウトされたおれの帰るべきところでわめきまわっているやつらに
あなたと同じ機動隊が何度も逮捕すると繰り返しながら、やつらが出てくるとたんに両側にしっかりついた機動隊が地下鉄まで送ってゆくさまをはっきり見ているのだ
今日もやつらを核マルとかの内ゲバ相手から守って
おれたちの怒りから守って
やつらのねぐらまで送りとどけてやるのか
帰れとはなにか
それともあなた
一緒にいきつけの縄のれんでもくぐろうか
それにはジュラルミンのたて
ヘルメットのスネあて
あつい戦闘服
みんな放って それからだ
おれは越後からきた
あなたはどこからきたのか
故郷の味噌の味はどうか
あそこの縄のれんにはどこの地酒だってある
じっくり話そう
帰れとはなにか
ひとが縄のれんまで誘ったのに帰れとはなにか
おれは帰ってきたのだ
帰るところはない