詩集を読む

楽しく、ほろり、そして怒りがしみ出てくる


 詩集名  阿修羅
           作者   吉村悟一


 本来、〈いのちは輝いて/いまをしっかり生きている〉「雀たち」はずでなければならない。しかし規制緩和が進む労働のなかで追い立てられ〈夫は妻の痛みにまだ気づいていない/妻は夫を癒すゆとりがない〉「夫婦の風景」。この社会に作者はさわやかに切り込む。
 〈職場規律が良心をがんじがらめに縛り〉〈サービス残業で家に寝に帰るだけ〉の正規職員、非正規労働者、住む家もないワーキングプアの実態をうたう。「公園と男」「おれに春が来るのか」等で浮浪者(?)を頭をたれずにうたう。そして問題の本質がどこになるのかを、言葉の力を借りて明らかにする。
 見過ごしてしまいがちな小さな記事から、空想力を鋭く働かせて、社会の、政治の有り様を問いかける詩は、機械的でなく、楽しく、ほろりとし、怒りがしみ出てくる。現実社会への洞察と想像力、詩の力がないと、なかなかうまく作品にならないはずだ。作者の力をみる思いがする。

▼私の好きな詩 
★「無言館
 キャンバスの裸婦が〈切羽詰まって描ききれず/軍靴の人となったあなたのいのち〉を未完のまま待っている。最終連は次のように締めくくられる。〈若い人がふたたび同じ思いをしないように/私の思いを伝えたい/言葉ではなく残された私の絵で〉


★「おれに春が来るのか
 銀行に、国の政治に翻弄されて〈おれは住所不定の河川敷の嫌われ者〉となった自らに、硬質の語りで暗くならずに、問いかける〈おれに春が来るのか〉と。

▼私の好きな詩句
★〈いのちは輝いて/いまをしっかり生きている〉「雀たち」 

▼筆記年月日 2012年1月15日


 詩集名  阿修羅
  ↑ 横浜詩人会議のHPにも この詩集の紹介があります。

改めて詩集データ

 詩集名  阿修羅
 作者   吉村悟一
 ページ数 93P
 詩の数  序の「阿修羅」を含めて 32編
 発行年月日 2011年3月2日
 出版会社 詩人会議出版
 頒価 1800円


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