報告   洲 史

約束は飯田橋ルノアール
一九八七年二月八日 午後三時

神奈川の田舎から 電車のなかで一眠りして 一時間の遅刻で駆けつければ
ルノアールの自動扉の前でいくら飛び跳ねても扉は開かず 手で開けようとしても開かず
途方に暮れた末 やっと見つけた走り書き
「白百合で待つ 上原」
このようにしてルノアールは名誉あるぼくらのサークルの発足会議の会場を白百合に譲ったのだった

「十年たったら」と書いた詩人がいたが
十数年たっても ぼくらはまるで変らずに
飯田橋の桜の下のコンパとか 湯豆腐とおしんこと酒しかでない飲み屋とかで語っていた
昔の野望をそのまま語り(愛した女とは十年も続かなかった男が二人もいるというのに 十数年間失わなかったのは野望だけだったか)
昔とすこしだけ変ったのは 一応サークルを名乗り何かを始めようと決めたことだった

一九七二年 沖縄返還闘争の前後
法政大学第二文学部日本文学科で 文学のほかいろいろと青春を共有した者たちの
同窓会的文学サークルか 文学サークル的同窓会か よくわからないが
ともかく ぼくらのサークルは 生まれた

ぼくらのサークルは まだ名もないが
ぼくらにはまだ]「十年たったら」と 言えるだけの若さが残っている

 「追い風」創刊号よりホームページ版発行につき再掲


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